知的資産(裏方資産・黒子資産)とは
知的資産とは、企業内にあるけれど財務諸表には表れにくい強みで、企業の競争力の源泉となっているものです。知的資産には、人材、経営理念、技術、ノウハウ、組織力、ネットワーク、ブランド、特許等があります。
この知的資産のことを京都では「知恵」と呼んでいます。「知恵」=「こだわり」「工夫」「ひと手間」「不合理な作業」「ネットワーク」「やり方」などは他社と差別化を図っている御社の宝といえます。
企業の外部に出てくるのは、商品サービスや不動産をはじめとする各種物的資産です。これに対して知的資産というのは、決算書の資産に出てくるわけでもないし、企業の外部から目に触れるわけでもありません。知的資産は、企業が商品サービスを提供できるように企業を支えている目に見えない資産のことをいいます。
そのため、当事務所では知的資産を「裏方資産・黒子資産」という言葉で説明しています。ただ、裏方資産・黒子資産という言葉は当事務所が作った言葉なので、本サイトでは「知的資産」として記載していきますが、企業の縁の下の力持ちとなっている資産、すなわち裏方で支えている資産というイメージをしていただければと思います。
知的財産とは
知的財産と呼ばれるものには、法的に権利として認められた知的財産権と、営業秘密などで守られる権利化されていない知的財産とがあります。知的財産権と知的財産は独立して存在するのではなく、知的財産というくくりの中に知的財産権が含まれます。知的財産権には、特許権、商標権、意匠権、実用新案権、著作権などがあります。知的財産権ではない、つまり法的に権利化されていない知的財産には、ブランドやノウハウなどがあります。
知的資産と知的財産の違いとは
知的資産と知的財産は、言葉が似ているが故に同じものだと認識される方が多くいらっしゃいますが、知的資産は知的財産よりも広い概念です。知的資産の1つに知的財産権を含む知的財産があります。しかし、知的資産は知的財産の他に、組織力、人材、理念、技術力、ネットワーク力など企業の固有の強みをも含み、企業競争力の源泉となる資産を総称するものです。
無形資産とは
無形資産とは、知的財産権、知的財産、知的資産をすべて含んだ上で、これらに含まれない借地権や電話加入権などをも含む幅広い概念です。
知的資産と無形資産の違いとは
まず、知的資産は無形資産の一部を構成しています。しかし同じ目に見えにくい資産であるにもかかわらず、無形資産には含まれて知的資産には含まれないものがあります。
例えば電話加入権それ自体は目に見えない資産です。電話加入権は知的資産ではなく無形資産です。それは電話加入権の所有者が自分の電話加入権を販売する際に、誰に販売してもほぼ変わらない金額で売ることができるからです。つまり無形資産である電話加入権は、企業が有する金銭的な価値として計上することができるのです。
他方で、例えば、経営理念は売買することはできませんし、たとえその理念の言葉を売ったとしても、その中にこめられた想いまでは売買することができません。そして理念そのものは企業が有する金銭的な価値として計上することができません。
また、例えば、知的財産権も電話加入権と同様に売買することはできますが、その評価は一定額とはいえません。ある知的財産権を売買すると仮定します。その知的財産権は、A社にとっては非常に価値のある、高額でも購入したい権利だとします。その一方で、B社にとっては無償でも必要ないとか活用できない権利ということもあり得るのです。つまり知的財産権を購入する企業の事業内容、規模、設備、人材、事業計画など様々な要素により、その知的財産権の価値が異なってくるのです。
このように、目に見えにくい資産で金銭的な価値として計上しやすいものが無形資産、計上しにくいものが知的資産ということができます。しかし、知的資産と無形資産を同じ意味で使われていることも多いため、必ずしも知的資産と無形資産が用語として使い分けられているとは限りません。
知的資本とは
知的資産と似た用語の1つに知的資本という用語があります。知的資本とは、企業が経営する過程で蓄積されてきた現時点では価値を測定できない潜在的な企業価値や、株式時価総額と簿価企業価値との差額部分を指すといわれていますが、その他にも知的資本の定義があるようです。
知的資産と知的資本
私が知的資本の定義を見ても、知的資産との違いを明確に説明することができません。もちろん知的資産と知的資本を明確に区別して用いている文献等もありますので、まったく同じものではないと考えられます。しかし、私が拝見した多くの文献等においては、知的資産と知的資本はほぼ同義で使われていました。そのため、私は知的資産と知的資本はほぼ同義であると解釈しています。
知的資産の特性
知的資産は以下の4つの特性を有しています。
- 知的資産の汎用性・・・知的資産は、通常の物体と異なり、多くの人が同時に利用することができます。例えばノウハウ。現在Xさんがノウハウを使っていても、同時にYさんもそのノウハウを使うことができます。これがノウハウを書いたノートといった物体であったら、1人が使っていたら他の人は使えません。しかし知的資産であるノウハウそのものは複数の人が同時に使うことができるというわけです。
- 知的資産の利用による価値の増大・・・例えば機械は、使えば使うほど老朽化したり故障したりします。しかし知的資産は使えば使うほど磨かれて価値が増大するのです。例えばデータベース。データベースを使えば使うほど中味のデータが増えて充実してきます。そのため知的資産であるデータベースの価値が増大します。
- 知的資産の模倣困難性・・・知的資産1つ1つを取ってみると、誰にでも同じ結果を生み出せそうなものがあります。しかし、ある企業の知的資産の一部を他の企業が真似したとしても、必ずしも同じ結果を導き出せるとは限りません。例えば経営理念。A社の経営理念がすぐれているからB社も同じ経営理念を打ち出したとします。しかし、その理念への想い、その理念の浸透方法、その理念の実践方法などは企業ごとに異なっています。そのため、まったく同じ結果を生み出すことはできません。つまり知的資産の本質的な部分を模倣することはできないのです。
- 知的資産の関連性・・・1つだけの知的資産ではなかなか効果を発揮することができません。例えば、どんなに優れたノウハウがあったとしても、そのノウハウを活かせる人材、そのノウハウをアピールする力、そのノウハウを実現できる設備、そのノウハウを営業秘密として管理する力など、様々な他の知的資産と相まって高い評価を受けられる知的資産となっているわけです。つまり知的資産は他の知的資産や物的資産などと密接に関連しながら存在しているのです。
知的資産の分類
知的資産の分類方法もいくつかあるようですが、一番多く使われている方法は以下の3つに分類する方法です。
- 人的資産・・・従業員個々人が有しているスキル、ノウハウ、コツなど。この人的資産は従業員が企業からいなくなってしまったら会社にはなくなってしまう知的資産です。
- 構造資産・・・知的財産権、データベース、経営理念、マニュアルなど。この構造資産は企業にあるため、特定の従業員が企業からいなくなっても企業内に残る知的資産です。
- 関係資産・・・企業と顧客との関係、企業と取引先との関係、企業と金融機関との関係など。この関係資産は、企業と外部との関係性に付随する知的資産です。
中小企業において人的資産、構造資産、関係資産の比率はどのくらいだと思いますか?
中小企業の範囲が広いので一概には言えませんが、多くの中小企業が人的資産8割、構造資産1割、関係資産1割と言われています。零細企業になるにつれて人的資産の割合が増えてきます。
人的資産というのは従業員1人1人の持っている力ですが、中小零細企業において8割を占めるといわれている人的資産の大半は経営者(社長)の人的資産です。つまり、社長に万一のことが起こったら、一気に会社の経営が成り立たなくなってしまうのです。
企業は経営者が変わってもずっと残っていくもの、というのが本来の姿ですが、中小企業、特に零細企業においては経営者の力だけに偏っていることがわかります。
ちなみに、大手企業においては、人的資産1割、構造資産4割、関係資産5割程度といわれています。だから経営者に万一のことが起こっても、そのために企業の経営が危うくなるという可能性は低いです。ただ、経営権をめぐって争いが起こることもあるので完全に安泰という会社はないのかもしれませんが。
少し話がそれましたが、中小企業においては、特に経営者の人的資産の割合が高すぎるので、これを何とかできないものか?というのが次のお話です。(中小零細企業の事業承継対策は非常に重要です。事業承継のことは本サイトの別の項目で記載します。)
人的資産の構造資産化とは
人的資産の構造資産化はが大切である、と言われることがあります。
人的資産は1人1人の従業員のスキルなどなので、従業員が退職する度に企業から失われていくものです。従業員は人なので、いずれ企業を去ることになります。
先に記載したとおり、特に中小企業においては経営者の人的資産が8割と言われています。この状態が永続的に続くと、経営者に何かあった途端に一気に会社が傾き、最悪倒産してしまいかねません。
また職人さんの技術で成り立っている会社においては、熟練した職人さんが辞めた途端に品質が維持できなくなり、一気に経営が傾くこともあります。
そこで、従業員1人1人が有している人的資産を、できる限りマニュアルとしてまとめたり、データベース化したりすることで、従業員が退職しても企業内にノウハウ等が残る仕組みづくりをしましょう、という考え方が出てきます。
それが人的資産の構造資産化です。人的資産を構造資産化することで、企業がノウハウ等を共有できるメリットもありますが、それとともに、従業員1人1人の存在価値の発見、尊重、評価などにも結びつくと考えられます。
知的資産と財務諸表(決算書)の関係
知的資産そのものは、なかなか決算書の数字には表れてきません。特に人材は「人件費」というコストとして捉えられ、資産とは逆に捉えられがちです。
しかし、様々な知的資産が相互に作用しているからこそ、企業が事業活動を行うことができているのです。つまり、1つ1つの知的資産そのものは財務諸表(決算書)には出てきませんが、知的資産の活用の結果が決算書の数値ということができます。
それゆえ、知的資産そのものが財務諸表(決算書)の数字に現れないからといって、知的資産と財務諸表(決算書)を切り離して考えることはできません。知的資産は財務諸表(決算書)の土台となっているものです。
知的資産と経営課題
知的資産の活用の結果が決算書の数字に表れてくるということは、知的資産と経営課題も無縁ではないということです。
顧客開拓、求人などの経営課題を解決するためには、まずは知的資産の洗い出しと整理が大切です。
- 自社にどのような知的資産があるのか
- どの知的資産とどの知的資産がどのように関係しているのか
- 相互に関係した知的資産がどんな効果をもたらしているのか
- ある経営課題を解決するためにはどの知的資産を活用したらいいのか
- その活用をするためにはどのようなシステム作りなどが必要なのか
例えばこのような知的資産の洗い出しと整理をしてみるのも1つの方法です。