知的資産のセグメント分析
知的資産のセグメント分析とは、中森孝文龍谷大学政策学部教授が提唱された分析方法で、企業の事業活動を「経営理念」「マネジメント」「技術・ノウハウ・ネットワーク」「商品・サービス」「業績」のセグメントに分けて記載し、各知的資産のつながりをストーリーとして捉える分析手法です。
本サイトの「知的資産の見える化」で「知的資産のセグメント分析」を簡単にご紹介しましたが、このページでは知的資産のセグメント分析についてより詳しく書かせていただきます。
下記の記述は中森孝文著「無形の強み」の活かし方-中小企業と地域産業の知的資産マネジメント-を、当事務所が解釈してまとめたものです。本サイトの記述だけですべてを理解することはできませんので、上記の書籍を読まれることをお勧めします。
企業の事業活動は、「経営理念」⇒「マネジメント」⇒「技術・ノウハウ・ネットワーク」⇒「商品・サービス」⇒「業績」という順に行われています。
しかし、知的資産のセグメント分析を行う際には、逆から見ていきます。つまり、「業績」⇒「商品・サービス」⇒「技術・ノウハウ・ネットワーク」⇒「マネジメント」⇒「経営理念」の順に見ていくのです。
知的資産のセグメント分析~商品の分析
知的資産のセグメント分析をする際、商品を売上高(利益率・利益等)の高低を縦軸に、商品サービスの特異性の強弱を横軸にとり、4つのタイプに分類します。
- タイプⅠ・・・売上高(利益率・利益等)高い、特異性強い
- タイプⅡ・・・売上高(利益率・利益等)高い、特異性弱い
- タイプⅢ・・・売上高(利益率・利益等)低い、特異性強い
- タイプⅣ・・・売上高(利益率・利益等)低い、特異性弱い
タイプⅠ~Ⅳのどこに入るのかを各商品サービスごとに考えていきます。その際、同じ枠内に入る商品サービスであっても、より売上高が高いとか、より特異性が強いなどを意識して分析します。
知的資産のセグメント分析~タイプⅠ
タイプⅠとは、売上高(利益率・利益等)が高く、特異性が強いという枠に入る商品サービスです。
このタイプに属する商品サービスは、その商品サービスの特異性が商品サービスの強みとなっており、業績にも貢献しています。
それゆえ、まずは商品サービスの用途や機能をわかりやすい言葉で記載します。(例:自動車のエンジン部品として使用)
次にシェア率や加工の精度などを数値化して示します。(例:国内シェア80%)
そしてその特異性を出せる原因を記載します。(例:自社で設計したライン設備を保有しており社員全員が操作可能)
最後に特異性を出せる原因を得るためにどんな工夫をしているのかを記載します。(例:10段階に分けた社員教育システムを採用)
これらを一通り記載したら、商品サービスごとに論理的にストーリー化してみます。もしもどれにもつながらない特異性が出てきたり、特異性はあるのにその原因がなかったりして、論理的につながらないのであれば、何かを見落としているということになります。そのような場合はもう一度見直す必要があります。
知的資産のセグメント分析~タイプⅡ
タイプⅡとは、売上高(利益率・利益等)が高く、特異性が弱いという枠に入る商品サービスです。
このタイプに属する商品サービスは、その商品サービスの特異性は弱いため、特異性につながっている強みを分析することはできません。
そこで、競合他社にも同様の商品サービスがあるにもかかわらずなぜその企業の商品サービスが売れて業績に貢献しているのかについて分析していきます。
まずは商品サービスの用途や機能をわかりやすい言葉で記載します。(例:贈答品のおまんじゅう)
次に自社で売れている理由を記載します。(例:ラッピングがおしゃれ、地域で最安値など)
そしてその売れている理由を提供するための工夫を記載します。(例:従業員へのラッピング資格取得支援、仕入先との良好な関係など)
これらを一通り記載したら、商品サービスごとに論理的にストーリー化してみます。競合他社があるにもかかわらず自社の商品サービスが売れている原因や、その原因を作るために行っている工夫などが御社の陰の強み、すなわち知的資産です。
知的資産のセグメント分析~タイプⅢ
タイプⅢとは、売上高(利益率・利益等)が低く、特異性が強いという枠に入る商品サービスです。
このタイプの商品サービスには特異性があるわけですから、まずはタイプⅠと同じ方法で特異性やその特異性を生み出せる背景・原因などを分析します。
しかし、タイプⅢはタイプⅠと異なり、特異性があるのに「売れていない」わけですから、タイプⅠと同じ分析だけでは足りません。
次に行うのは「売れていない原因の分析」です。例えばPR不足なのか?PRの方法が悪いのか?まだ時期が早すぎるのか?価格が高すぎるのか?などです。
この「売れない原因」によって今後の戦略が異なってきます。PR不足やPR方法の問題であれば積極的なPRや今までとは異なるPR方法を行ってみることも効果的かもしれません。
しかし売れない原因の内容によっては、自社でこのままその商品サービスを提供し続けるのが得策とはいえないケースも出てくる可能性があります。
そのため、売れない原因の分析は非常に重要な決断を強いられるものといえます。
知的資産のセグメント分析~タイプⅣ
タイプⅣとは、売上高(利益率・利益等)が低く、特異性も低いという枠に入る商品サービスです。
このタイプに属する商品サービスは、撤退の対象となることが多く、実際に撤退する商品サービスも少なくありません。
しかし、知的資産のセグメント分析においては、このタイプに属していても、なお撤退せずに提供し続けている商品サービスについて分析をしていきます。
このタイプに属する商品サービスの分析は以下のような視点で行います。
まずは商品サービスの用途や機能をわかりやすい言葉で記載します。(例:お茶)
次に、この商品サービスの存在理由を記載します。(例:自社ブランドの象徴)
そしてなぜ商品として配置することに意義があると考えたのかを記載します。(例:顧客アンケートの結果)
商品サービスの存在理由や、そこに目をつけた勘所やその背景にあるものが知的資産となります。
知的資産のセグメント分析~ストーリー化の方法
各々の商品サービスがタイプⅠ~Ⅳのどこに該当するのかを振り分け、タイプ別に記述した分析を行ったら、ストーリー化していきます。
ストーリー化というのは、タイプごとに行った分析を「経営理念」「マネジメント」「技術・ノウハウ・ネットワーク」「商品・サービス」に落とし込み、論理的につなげていくということです。
- 商品・サービス ⇒ 商品・サービスの名称のほか、内容、特徴、シェアや販売数などです。タイプⅠとⅢの特異性に記載したものもこれに該当します。
- 技術・ノウハウ・ネットワーク ⇒ 技術やノウハウの呼び名、競争優位性、特徴、競合他社との比較、取引先とのネットワークなどです。タイプⅠとⅢの特異性を出せる原因、タイプⅡの商品サービスが売れている理由、タイプⅣの商品サービスの存在理由がこれに該当します。
- マネジメント ⇒ マネジメントにおける工夫、マネジメントの方法、そのマネジメントによる効果などです。タイプⅠとⅢの特異性を出せる原因を得るためにどんな工夫をしているのか、タイプⅡの売れている理由を提供するための工夫、タイプⅣの商品サービスに目をつけた勘所やその背景にあるものがこれに該当します。
企業は様々な工夫をこらして得たノウハウなどを使って商品サービスを提供しています。しかし時代の流れにより、工夫の仕方、技術、そして商品サービスさえも変化する可能性があります。企業が生き残るためには時代の流れに沿った変化も必要ですが、変化によってコンプライアンスがないがしろにされたり、モラルに反するようなことが行われたりしたら企業の存在価値が低下してしまいます。そこで経営理念が大切になります。 - 経営理念 ⇒ 経営理念はもちろんのこと、経営者の想い、信念、行動規範、企業の方針、社会的意義など、日々の業務よりも上位の概念や経営哲学になります。この経営理念の部分が、「マネジメント」「技術・ノウハウ・ネットワーク」「商品・サービス」につながる根幹を作りだすことになります。
これらの整理ができたら、「経営理念」⇒「マネジメント」⇒「技術・ノウハウ・ネットワーク」⇒「商品・サービス」⇒「業績」というように論理的につながるストーリーにしていきます。
ここでのポイントは論理的につながるようにという点です。もしも論理的に説明がつかない点があったら、まだ探し切れていない何かがあるはずですので、それを丁寧に洗い出してください。